Ali Kazma “Souterrain” / Jeu de Paume

感情を排除した作品に、感情を揺さぶられる秀逸なビデオ作品群

Ali Kazmaは1971年にイスタンブールで生まれ、ニューヨークで学び、現在はイスタンブールを拠点に活動しているアーティスト。写真やビデオを中心に制作をし、人間によって世界が変貌する様子を建築や場所などを通して見つめています。同時に科学、産業、医療などの人間の営みを通して、社会の進化や人間のあり方を幅広く記録に留めて作品にしています。

本展覧会は、過去10年あまりの作品が20点以上展示されている彼の個展。入ってすぐの部屋から、壁にいくつものビデオが上映されています。作品には大きく分けて、何かの作業をしている人物、作業が行われていた場所(とその記憶)、に分かれています。

ALI1

例えば最初の部屋のポイントは、現代の消費社会においてあまり注目されなくなっている、手作業でのものづくり。『Clark(2011)』という作品では、事務員が書類に捺印する作業をひたすら、角度を変えながら撮っています。人物の作業スピードと正確さたるや、驚きに値します。皆さんは訓練された人間がひたすら単純作業を的確にこなす姿に、驚愕した経験はありませんか?銀行員のお金を数える作業、料理人が野菜を切る作業、など。ここに映っているのは、人間による単純労働、手作業でありながら非人間的なまでな正確さ、です。作業から生まれる捺印の音が一定のリズムを刻み、知らずと引き込まれてゆく作品。他にも入れ墨師や外科医など、様々な専門家が作業する様子が、いくつかの部屋に分かれて展示されています。

 

Safe(2015)』では北極近くにあるスピッツベルゲン島にある、スヴァールバル世界種子貯蔵庫の様子を撮影しています。この施設では農作物種の絶滅を防いだり、研究目的のために地球上にある種子を冷凍保存(–18度に保たれているそう)をしていて、その種類たるや現在5384種!「スヴァールバル・グローバル・シード・ボルト」とも呼ばれる、いわゆる種子銀行なのです。興味のある方は、英語ですがこちらからどうぞ。アートを通して、現在世界で起きていること、行われていることを学べる。だからおもしろいんですよね。施設があるのは廃坑となった炭坑跡地で、『North(2017)』はスヴァールバル世界種子貯蔵庫近くで撮影されています。さらに『Absence(2011)』では、オランダにある今は使われていないNATOの基地を撮影。戦争の記憶、政治が大地に残す爪痕など、やはり人間の営みと場所の関連性を掘り下げています。

Ali Kazmaは場所であれ人であれ、自分が介入することはありません。シンプルで手堅い映像ながら、非常に強い印象を観る者に与えます。撮影や編集も凝ったことはせず、アーティストの感情などは排除して淡々と見せています。だからこそ、廃墟などに残る歴史や人々の記憶が強烈に迫ってきて、しかも大きなスクリーンで景観を見るのでなおさら、胸に迫るものがあります。

ゆっくりと映像世界に浸りつつ、私たちの営みが与えるインパクトについて考えを巡らすきっかけを与えてくれる展示です。かなりのボリュームのビデオ作品(数、時間とも)ですので、是非時間に余裕を持って行くのがおすすめ。


Ali Kazma 『Souterrain
Jeu de Paume にて 
2018年1月21日まで

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト /  変更 )

%s と連携中