『光』(監督:河瀬直美)レビュー

カンヌ国際映画祭Prix du Jury Œcuménique(エキュメニカル審査員賞)受賞作品。視力を失いつつある写真家と映画音声ガイドを作成する女性が出会い、お互いに光を見いだす物語。

中森雅哉(永瀬正敏)は視力を失いつつある、名の知れたカメラマン。尾崎美佐子(水崎綾女)は、映画の音声ガイド制作者。2人はある映画のガイド作成を通して、作成者とモニターとして知り合う。中森は視力を失う恐怖、美佐子は家族の問題、という闇を心に隠し持っている2人が、互いに寄り添いながら光を見いだしてゆく。

生と死、奈良の景色、カメラワークなど、テーマや手法において従来の河瀬監督作品との共通点が見られる本作。はっきりと違いが感じられるのは、言葉数の多さではないでしょうか。『萌の朱雀』『沙羅双樹』『殯の森』の頃と比べると、近年の河瀬監督はより言葉に重きを置いている印象を受けます。『2つ目の窓』では、ちょっと出演者の台詞がくどくなってきたところで、ドリアン助川原作の『あん』を発表。ちょっと語りからひと息おいて、今回の『光』では、さらに言葉が増えました。

本作では美佐子の仕事上、言葉がとても大切な役割を担います。そして中森を通して、私たちが普段いかに視覚に頼り切っているか、またビジュアルアートという言葉もあるように、アート、というと視覚的なものが多い現実についても深く考えさせられるのです。もちろん、音をテーマにした現代アート作品もたくさんあるのですが、まだアートの展示と言えば目で見るものが多いですよね。映画もイメージ、映像ありきですが、この作品では音の描写力がとても豊かで、これは是非音響システムがいい劇場で観るべきだと思います。何気ない日常の音に耳を傾けていると、中森の体験を共有しているような錯覚に陥ります。

全体を通してズームショットが多く、特に出演者の目のズームショットが数多く盛り込まれていて、これは女優さん泣かせだ、と思わず余計なことを考えてしまいます。また手持ちカメラのゆらゆらした、臨場感や親近感、また現実味ある映像は健在です。

この年になると、生と死の間がだんだん曖昧になってくる。

ポスターなどでは「ラブストーリー」とありますが、それだけが主題ではありません。河瀬監督はこの作品でも、老いや死について触れています。それは作品中の映画監督兼主演の北林が言う「この年になると、生と死の間がだんだん曖昧になってくる」という台詞が端的な例ではないでしょうか。河瀬作品の中に必ず一抹の光があります。死や絶望、喪失とネガティブで悲観的なようでいて、実はそうではなく、きちんと闇に向き合うからこそたった一筋の光がまぶしいのだと。そもそもまぶしい光に包まれていては、一筋の光など見えないのです。光と闇のコントラストを強調する手法をわかっていながらも、毎回術にはまり涙を流してしまう、でもその感情の揺れが心地よい。『光』もそんな作品でした。


日本国内公開中 映画公式サイト

作品名:光
監督:河瀬直美
出演者:永瀬正敏、水崎綾女、藤竜也 他
製作:日本・フランス・ドイツ合作
製作年:2017
上映時間:102分

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