『Fukushima, mon amour』(監督 : Doris Dörrie)レビュー

ドイツ映画『フクシマ・モナムール』、フランスでも公開中

ドイツ人のマリーは自殺を試みるほど、人生に絶望していた。知らない土地へ行けば、自分より大変な状況にいる人達を“助けてあげれば”、少しは惨めじゃなくなるんじゃないかと福島を訪れる。が、自分の惨めさは増す一方で、助けが必要なのは、被災した人達ではなく自分の方だった。またもその場所から去ろうとするが、被災者の一人で仮説住宅に住むサトミとの出会いと交流を通して、過去も含めた自分に向き合うようになる。そしてそれはサトミにとっても同じことだった。苦しい過去を抱える2人の女性が、時と共に癒され癒し合う。

何もかもうまくいかなくて行き詰まった時。例え原因が自分にあるとしても、あえてそれに直面したくない時。逃げることは解決にはならないとわかっていても、どこかへ行ってしまいたい、と思ったことがありますか。この映画の主人公マリーは、そんな感じでドイツから被災後の福島へボランティアでやって来ます。『ああ、傷ついた主人公が福島で人助けして、新しい自分を見つけたりして立ち直って、再出発するパターン?人生そんな風にいくかなあ。』と、思いますか。はい、その通り。マリーもそのことに早い段階で気がつきます。そこからが物語のスタート。やっぱりドイツへ帰ろう、とすっかり逃げ癖のついているマリーですが、なぜかサトミのことが気になり、荒れ果てたサトミの家を片付けるのを手伝いながら共に生活するようになります。サトミも震災にまつわる辛い過去を背負って生きていて、2人がそれぞれの痛みをどう乗り越えるのか、が焦点になっていきます。

この映画はフランスでは『フクシマ・モナムール』というタイトルで公開されています。当然アラン・レネ監督、マルグリット・デュラス脚本の『ヒロシマ、モナムール』(邦題は『二十四時間の情事』)のことを考えます。雰囲気も手法もテーマも全く違う2作品ですが、いくつか共通点も。例えば

  • 壊滅状態の日本の街で、悲しい過去を背負う2人の人間が出会う。
  • 広島では反核、反原爆運動、福島では反原発運動。いずれも放射能被害。
  • 冒頭のシーンは肉体の一部がズームで映し出され、ボイスオーバーでの語りが始まる。

この冒頭の語りは、『フクシマ・モナムール』ではモノローグで人生についての疑問を並べ、『ヒロシマ、モナムール』では広島についての男女の会話。ここで有名な「君は広島で何も見なかった」が登場します。果たして『フクシマ・モナムール』のマリーは、福島で見るべきものを見たのでしょうか。そして『フクシマ・モナムール』にはもうひとつ、キーとなるモノローグがあります。それはサトミが「もしもある日突然何もかも失ったら、あなたはどうしますか。」と問いかける部分。モノローグで問題を提起する手法です。

この作品を理解する上でちょっと難しいのは、現実と非現実のさじ加減。例えば、全編白黒のイメージ、幽霊、道化師という要素は非現実的な雰囲気を作り出しているのに対し、クローンカメラによる福島の風景や津波発生当時のアーカイブ映像は白黒であってもなおリアル。また最後の最後に映し出される、反原発のデモのイメージもメッセージが具体的、政治的かつ現実的。リアルとファンタジーの要素がいろいろ混ざっていて、大切な部分にフォーカスしづらいかも。

桃井かおりが演じるサトミは実は芸者なのですが、それも含め劇中の日本/ドイツのイメージが、やや典型というかクリシェに寄っている印象も否めません。マリーがお茶の作法を習うとか、座り方を注意されるとか、2人とも浴衣を着ているとか。一方でドイツ人女性が『でかい』とか。ただ、頭ではそう思っていても、心は日本人(笑)。サトミの動作は指先まで美しく、エレガント。まさに世界に発信したい日本女性のイメージで鼻が高くもある(笑)。同時にサトミは『ゲイシャ』ではなく、芸を鍛え、後継に伝えることが生き甲斐の『芸者』なのだ、と思うように。また、家の中で2人が座っているシーンは、低いカメラ位置から撮影され、小津安二郎の作品を見ているかのようなノスタルジックな気分になります。

そして最後にマリーが家を出て行くシーン。言葉を交わす代わりに、サトミは正座して三つ指をついてお辞儀をします。ため息が出るほど、優雅で美しいお辞儀。『さよなら』『ありがとう』『行ってらっしゃい』『お元気で』そんないくつもの言葉を、たったひとつのお辞儀で表現してしまう女優桃井かおりの演技力に、脱帽です。

福島である必要性、幽霊や実在の人物を登場させる必要性、いろいろな必要性を考えさせる作品ではありますが、結局なんだかんだで最初から最後まで涙腺がゆるみっ放しでした。


作品名:Fukushima, mon amour (原題:Gruße aus Fukushima)
監督:Doris Dörrie
出演者: Rosalie Thomass, Kaori Momoi, Nami Kamata 他
製作:ドイツ
製作年:2016
上映時間:108分

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