I, Daniel Blake (2016) わたしは、ダニエル・ブレイク

ふと、オー・ヘンリーの『賢者の贈り物』という短編小説を思い出した。妻は夫の懐中時計を吊るす鎖を買うために、自慢の長い髪を売る。夫は妻に櫛を買うために、懐中時計を売る。この物語が書かれた1905年当時、世界は今より希望に満ちていただろうか。貧しさの先に、一筋でも灯りが見えていただろうか。

この映画の舞台は、イギリスのニューカッスル。主人公ダニエル・ブレイクは大工として働いていたが、心臓病のせいでドクターストップがかかる。そこで国の援助を申請しようとするが、手続きはあまりに困難。そんな中シングルマザーのケイティと二人の子供に出会い交流を深めていくが、現実は厳しく両者の生活は困窮してゆき・・・というストーリー。

ある程度先が読めてしまい、意外さはない。最後にダニエルがトイレに入って鏡に映る自分を見るシーンも、カメラワークが先に結末を語ってしまっている。が、それでいいのだろう。この映画を見た後、映画館から出て、ブレグジットやトランプ氏が大統領に選ばれた背景などの世界状況を考えたなら、それが監督の意図であり映画としては成功なのだろうと思う。

この映画のメッセージは、映画の一番最後に読まれる主人公の手紙に集約されている。

I am human, not a dog. I am a citizen, nothing more nothing less.

私は人間であり、犬ではない。私は一市民であり、それ以上でもそれ以下でもない。この当たり前のことを、再度訴えなければならない状態に、欧州は直面している。それはカンヌ映画祭の受賞作にも、反映されている。この映画はケン・ローチ監督に『麦の穂をゆらす風』に続く2度目のカンヌ映画祭パルムドールをもたらした。昨年の『ディーパン』に続き、社会派映画が連続で選ばれたことになる。移民問題、失業などの貧困と経済格差の問題など欧州が抱える問題を、映画が反映している。

ここからは私の個人的感想。今の私に一番訴えてきた場面は、ダニエルがCV作成コースに参加するところ。ここで講師が、1件あたりの求人に寄せられる応募数や、人事担当がCVに目を通す時間などの「FACT」を話しながら、どれだけ厳しい状況かを説明する。だから、stand outー目立たなければならない、と。それをダニエルはちゃかして、笑ってすませる。この場合、道化に見えるのはダニエルなのだろうか。それとも講師のほうか。ダニエルの態度は、恐らく監督のそれだと思う。競争に勝つためには、自分をアピールして抜きん出る必要がある。それが出来ないと、仕事に就けない。仕事がないと、人間の尊厳は維持できない・・・果たしてそれしか選択肢はないのだろうか。それ以外の選択肢を、私たちは作れるのではないか。そんなことを考えた。

 この映画の物語に希望は見いだせるか。答えはイエスだ。ケイティの二人の子供たちがいる。彼らはダニエルとの暖かい時間を覚えている。その記憶こそが、希望に他ならない。そうした記憶を、私たちは次の世代に残せるだろうか。それをずっと自分に問いかけている。

日本公開は2017年3月18日。


題名 I, Daniel Blake
監督 Ken Loach
出演者 Dave Johns, Hayley Squires, Sharon Percy
製作国 UK | France | Belgium
製作年 2016
上映時間 100 min.

日本公式サイト
http://danielblake.jp/

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